1.OJTとは

 

(1)OJTの基本定義

  上司や先輩が、部下や後輩に対して、職務を通じて、職務に必要な、①態度・価値観、②知識・情報、

        ③技術・技能等を指導育成する全ての活動

 

(2)『OJT』の利点

  ①日常の仕事に直結した実践的指導が出来る。

  ②部下の特性や研修ニーズに応じたきめ細かな指導育成ができる。

  ③日常の機会をとらえて、いつでも、どこでも実施できる。

  ④計画的・継続的な指導育成が行える。

  ⑤研修効果が直ちに判断でき、フォローアップが容易である。

  ⑥職場で培われた技術やノウハウの伝承ができる。

  ⑦信頼関係を深める効果がある。

  ⑧育成についての職場風土が培われる。

        ⑨OJT担当者自身の成長も期待できる。

 

(3)実践上の指針(ポイント)

  ①『日常の機会指導』に加えて『意図的・計画的指導』を実践する。

  ②『個別指導(業務上の指導、助言等)』と『集団指導(ケースカンファレンス等)』の両面からアプローチする。

  ③『職務遂行能力の向上』に加え、『人材育成』を目指す。

  ④ 育成面談を通じて研修ニーズ・目標の相互調整と共有化を行う。

・支援者としての『職務遂行能力』とは、利用者のニーズや抱えている問題を感じとり、利用者が必要とする支援を専門的に提供できる能力のことである。

・OJTは、管理者や指導的職員の『本来業務』である。管理者や指導的職員は、組織 やチームの責任者であり、構成メンバーを指導育成する責任がある。

 

(4)OJTの役割分担

(5)OJTの推進体制(例)

≪OJT体制に必要なこと≫

  ①教える業務が標準化できている。

  ②職員が行う基本的な仕事は、その範囲が決まっている。

  ③何を、誰が、誰に、どの期間に、どのようにして、教えるか組織内で決まっている。

  ④指導者(OJT担当者)を支える仕組みができている。

  ⑤職場の業務が『可視化』できている。

フロー図

仕事の流れ全体を図で示し、理解や改善に用いるもの

 手順書

マニュアルと呼ぶこともあり、作業の進行順に、項目と内容、留意事項、補足等が記され、業務の標準的な進め方となるもの

 チェックリスト

重要な作業や膨大な作業の漏れやミスを防ぐための点検表

2.日常的なOJTについて

(1)日常の機会指導の意識的な実践

代表的なOJTの機会

①職員に仕事を割り当て、打合せを行う時

 

・計画への参画 ・目標設定 ・指示命令 等

②職員が仕事を遂行している時

 

・部下の能力を的確に把握し、必要に応じて指導 等

③職員が上司との接触を図ってきた時

 

・的確な指示/助言/励まし ・問題意識を持たせ動機づける 等

④職員の仕事が終了した時

 

・仕事の出来ばえに関する評価 ・仕事の結果について意見交換 等

⑤上司や職員が仕事から離れた時

 

・出張等で仕事を離れるような時 ・仕事の引継ぎや報告 ・権限の委譲 等

⑥意図的に経験の機会を提供する時

 

・意図的な経験の場の提供 ・会議や折衝の場への動向 ・代理出席 等

⑦特別に機会を設ける

 

 ・課題研究 ・勉強会や研究会の開催 ・読書指導 ・見学 等

(2)4つの代表的な指導方法

①『教える』指導法

 

指導者が、教える内容についてしっかりとした知識や技術を持っている場合に有効である。職員の理解度や成熟度に応じて、①全てを教える、②概要を説明する、③考え方や方向を助言する、④学び方を示す等。教えられる側に自主性や主体性を尊重することが大切である。

②『見習わせる』指導法

 

手本を示し、職員に見習わせ、気づかせ、考えさせるというもの

③『経験させる』指導法

 

実際に仕事を経験させる、分担させるといった基礎的なものから、仕事を代行させる、権限を委譲する、意思決定に参画させるなどの高度なものまで、幅広い範囲のものが含まれる。経験に頼りすぎることがないよう、知識と経験の調和を図っていくことが重要である。

④『動機づける』指導法

 

成長の原動力は、自ら学ぶことであり、本人の主体的な学習意欲にある。自ら学びとるように『動機づける』ことが大切である。励ます、ほめる、といった日常的な動機づけから、やりがいのある職務を与える、適切な目標を設定する、責任・権限を与える等、多様な方法がある。

(3)仕事の教え方4段階(新任職員に仕事を教える場合等に有効)

1段階…習う準備をさせる

 

①気楽にさせる

②何の仕事を行うか話す

③その仕事について知っている程度を確かめる

④仕事を覚えたい気持ちにさせる

⑤正しい位置につかせる

2段階…仕事の内容を説明する

 

①主なステップを1つずつ言って聞かせて、やって見せて、書いてみせる

②急所を強調する

③ハッキリと、抜かりなく、根気よく、理解できる能力以上を強いない。

3段階…実際にやらせてみる

 

①やらせてみて、間違いを正す

②やらせながら、説明させる

③もう一度やらせながら、急所を言わせる

④分かったと分かるまで確かめる

4段階…教えた後を見る

 

①仕事につかせる

 ②分らない時に聞く人を決めておく

 ③たびたび調べる

 ④質問するようにしむける

 ⑤だんだん指導を減らしていく

≪留意点≫

・基礎から応用へ、ステップ・バイ・ステップの指導が必要であるとともに、OJTを受ける職員の成熟度に応じた指導育成を心

    掛けることが大切である。基本は厳しく徹底しなければならないが、職員の自主性や個性、創造性を十分尊重しながら指導に当 

 たることが望まれる。

・共に学び、共に成長するという姿勢が大切である。また、部下や後輩は上司や先輩の『後ろ姿』を見て育つ。率先垂範、言行一

 致で育成者にふさわしい範を示すことが大切である。常に時代の動きに目を向け、部下や後輩より一歩先を読む努力を続けなけ  

 ればならない。

・組織の中で行われる注意や賞賛は、個人的な好みや感情表出ではなく、『基準』や『ルール』に従って行われるものである。注

 意や賞賛は、職員の誤った行動を是正し、正しく動機づけ、集団の規範を健全なものとして維持していくために必要な行為であ

 る。

・OJTを効果的に実践するためには、対象や目的に応じた指導を心掛けることが大切である。どのような能力を身につけさせ、

 どのような行動変容を期待するか、OJTによっても指導方法は異なってくる。能力の3要素(態度・価値観、知識・情報、技

 術・技能)に着眼した指導方法の工夫も必要になる。

(4)育成姿勢に関するチェック表

部下や後輩とビジョンや目標を共有化しているか

□部下や後輩と双方向の話し合いをよく行っている

□未来を語り、職場のビジョンや目標を示している

□部下や後輩と定期的に個別の面談を実施している

ステップ・バイ・ステップの指導を行っているか

□「仕事の教え方4段階」の方法を活用している

  ①習う準備をさせる  ②仕事の内容を説明する

  ③実際にやらせてみる ④教えた後を見る

□基礎から応用へと手順を踏んだ指導を行っている

□部下や後輩の成熟度に応じた指導を心掛けている

基本は厳しく徹底しているか

□何が基本であり、不可欠の項目であるかを明確にしている

□基本行動は繰り返し訓練し、徹底している

□基準から逸脱した行動は、その都度注意している

部下や後輩の自主性や個性を尊重しているか

□部下や後輩の自主性を尊重し、時には待つ姿勢をとっている

□独自の考え方や創造性を発揮できる機会を作っている

□時には、「あなたの考えは?」と反問している

共育の姿勢をとっているか

□節目ごとに、自分自身の知識や技術の見直しを行っている

□自分自身の自己啓発目標を設定している

□自ら職場内外の研修に積極的に参加している

率先垂範を心掛けているか

□基本行動や決定事項は率先して実行している

□言行一致を心掛けている

□常に時代の動きに目を向け、部下や後輩よりも一歩先を読む努力を続けている

3.「対象別・目的別指導」「意図的・計画的指導」について

(1)「対象別・目的別指導」

①新任職員受け入れ時のOJT

 

・心身ともに職場に気持ちよく馴染むように受け入れる

 ・職場生活や仕事の基本は、一定の基準を示し繰り返し徹底する

 ・仕事の目的や役割をハッキリ示す

 ・職員として自己啓発が大切であることを教える

 ・自立心を養うよう、質問したり、徐々に仕事を任せたりする

②中堅職員を伸ばすOJT

 

・まとまりある仕事や裁量権を与え、仕事にやりがいを持たせる

・新しい仕事や役割を与え、次の目標を明確にする

 ・テーマを与え、研究や業務改善の推進役を体験させる

 ・後輩の指導や地域との交流を体験させる

 ・将来の管理者または専門職としての意識を持たせる

③高齢者やベテラン層に対するOJT

 

・先輩として配慮するが、仕事上のけじめはきちんとつける

・仕事の成熟度を見極め、新しい仕事や役割を与える

・経験だけで仕事を処理しないよう、マニュアル等を作らせる

・現状に合わなくなった仕事の進め方や考え方は率直に指摘する

・新しいテーマを与え、本人に問題意識を持たせる

④勤務場所が異なる職員(ヘルパー等)のOJT

 

・全体ミーティング、個別面談等を行い、一定の統一した行動基準書を確認する

・必要な情報を随時提供し、情報伝達のルートを明確にしておく

・業務日誌を活用し、点検とフォローを実施する

・現場巡回、同行訪問を実施する

・期間を決めて、定期的に評価や相互フィードバックの機会を設ける

⑤コミュニケーションを改善するOJT

 

・定期的にミーティングを開催し、意見を述べる機会を与える

・会議や打合せの場に同行し、意見を述べさせる

・小さなことでも良く話し合い、よいことはほめて強化する

・質問してきた場合、『君ならどうするか』と尋ねてみる

・時には、時間外にインフォーマルな話し合いの場を持つ

⑥マナーや接遇応対を向上させるOJT

 

・基本用語や基本動作を決めて、全員で共有化し徹底する

・繰り返し訓練する

・基準を逸脱することによって起こる問題点を十分話し合う

・違反者に対してはお互いに注意し合う

・朝礼などを活用し、よい行動は積極的にほめ、改善提案を求める

⑦勤務態度が悪い職員のOJT

 

・基準や規律の意味を再度徹底する

・違反行為は、そのつど直接注意する(個人指導を繰り返し行う)

・日次・週間・月間スケジュールを立てさせ、進行状況を相互確認する

・短期の目標を設定し、チャレンジさせる

・職務適正を配慮し、場合によっては配置転換を行う。

⑧忙しい職場でのOJT

 

・仕事は平均化するよう、仕事の割当てを見直す

・職務のローテーションを行い、複数の仕事をこなせるようにする

・本人の啓発ニーズを明確にし、具体的な目標を持たせる

・職場内の会議(勉強会)等の司会(講師)を順番にやらせる

・仕事の改善を全員参加で検討する

(2)「意図的・計画的指導」PDCAサイクルにのっとって実施

具体的な育成目標や指導項目を決めて重点的に指導

1ステップ…OJTニーズの把握

 

現在及び将来の仕事・ポストに必要とされる態度・価値観、知識・情報、技術・技能等の能力のうち、求められる姿(能力)に照らして、不足している部分がOJTニーズ(必要点)となる

2ステップ…OJTの重点目標の設定

 

できるだけ具体的に設定する

①何を(目標項目)、②どのレベルまで(目標水準)、③いつまでに(目標期限)

3ステップ…OJT計画の立案

 

目標レベルに到達させるための指導内容の具体化である

部下のレベルや職場の実情に合わせて指導計画を立てることが重要である

4ステップ…OJTの実施

 

指導方法は、計画に折り込まなければならないが、日常の様々な機会をとらえて指導していく

①教える、②見習わせる、③経験される、④動機づける、⑤特別な方法で指導育成する、等様々な方法がある

5ステップ…OJT結果の評価とフォローアップ

 

指導した結果を確認し反省する

  ①目標項目の達成状況の確認と評価を行う

  ②プロセス上の問題点を把握する

  ③今後の研修ニーズを発見する 

等、本人と話し合い評価する

4.育成計画及びOJT担当者制度について

新任職員育成の効果をさらに高めるには、意図的・計画的に行うことが重要であり、 育成計画が欠かせない。

(1)育成の目的

   新任職員が、職場の理念に基づいた基本的態度・姿勢を身につけ、自らの役割や専門性とは何かを考え仕事ができるように

   なることを目指す。また新任職員が不安を抱いたり孤立したりしないよう、スムーズに職場になれるようにしていくことも

   目的である。

 

(2)育成の目標

   新任職員が身につけるべき行動・能力目標は、以下の①~④が考えられる。目標は、価値観・知識・技術の習得だけでなく、

   福祉職場に求められる“専門性”と“組織性”を意識して整理することが必要である。その上で、設定した目標を一定の期間で

   区切り、「わかる」から「できる」まで段階をつけながら、評価しやすいように到達目標を考える。

≪育成目標のイメージ≫

①社会人・組織人(チームの一員)・職業人(プロフェッショナル=専門職)の自覚を身につける

②職場の理念を理解して日々の実践ができる

③担当業務に必要な基礎的な知識・技術を習得し、実践できる

④自己啓発意欲を養い、将来に向け自己目標が考えられる

 

(3)新任職員に対するOJT

本来は職場の管理者や指導的職員が行うべきものである。しかし、新任職員の指導は指導すべき項目が多く、継続的できめ細かな指導が期待されることから、経験や年齢も近い中堅職員層から専任のOJT担当者を選び、3ヶ月~1年間くらいにわたって、一対一の指導体制をとる。

 

(4)新任職員OJT担当者

新任職員OJT担当者は、新任職員が最初に指導を受ける先輩であり、良い面でも悪い面でも新任者に大きな影響を与える。担当者の選任にあたっては、指導育成者としての適正を考慮することが重要である。職務に関する『専門性』に優れていることも大切な要素となるが、組織の一員としての協調性やチームワーク、リーダーシップといった『組織性』での資質能力に着眼することが必要である。

  

(5)OJT担当者の役割の明確化、及び職場全体でのバックアップ

職場の所属長は、OJT担当者の指導状況をよく把握し、適切なアドバイスを行う。

OJT担当者の主体性を尊重することも重要であり、担当者を体験することによって、中堅職員としての自覚が芽生え、担当者自身のよい成長の機会となる。 

新人職員OJT担当者の役割

①職場全体に馴染ませ、スムーズな適応をはかる

②職務に必要な能力や基本行動を徹底する

③新任職員の気持ちを受け止め、日常的な相談に応ずる

④新任職員指導について、職場全体の協力を引き出す

⑤指導内容について、職場の上司に相談・報告を行う

(6)OJT担当者による指導の仕方

①計画(育成目標・計画の策定)

 

・当該職員の自己申告により作成された研修計画を基に指導・助言をする。

 ・育成面談を経て、策定された当該職員の研修計画と所属長の育成目標をもとに、育成目標・育成計画を立てる。

 ・期首欄に期待を記入する。

②指導の実施

 

・「仕事の教え方4段階」等を活用して指導・助言をする。

 ・親身になって相談に応じ、信頼関係を築いていく。

③指導の確認

 

・中間欄に上半期の取り組み状況について、面談のうえ、コメントを記入する。

 ・さらに伸ばしたい点と改善すべき課題を励ましの視点で記入する。

④指導の評価・改善

 

1年間の取り組み状況について評価する。

 ・達成した点と来期の課題をねぎらいの視点でまとめる。

(7)育成計画及び面談の実施

1.期首面談

 

・OJT担当者の助言をもとに新任職員が作成した「研修計画」及びOJT担当者の「育成目標案」をもとに、所属長が育成面談を行う。

 ・育成目標を新任職員との話し合いにより定め、『研修計画兼育成計画表(様式62)』を完成させる。その際に、「何を、どのレベルまで、いつまでに」を明確にすることが重要である。

 ・面談を経て、今後の期待を伝える。

2.昼間面談

 

・上半期の取り組みについて、『研修計画兼育成計画表』をもとに話し合う。

3.期末面談

 

1年間の取り組みについて、『研修計画兼育成計画表』をもとに話し合う。